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Selfishly

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act5 「ロイ・マスタング」


at the Truth in the Mirror Image

act5 「ロイ・マスタング」
H18,10/29 22:30




若い時には 後悔の本当の意味の怖さを知る時間が無かった。

そして、年を得て、知識が増え、経験を持つ今になると
後悔をする事が恐ろしくなった。


何故、手を離したのか・・・。
詰られても、憎まれても、蔑まれても
あの手を離すべきでは・・・。
縋ってでもいい、ここに引き止めておくべきだったんだ。

自分の かけがえのない人間だと、
失ったと思っていた時間に思い知ったと言うのに、
何故、また 再開をした時に その手を離したりしたのか。





ロイは 一旦は見失っていた 自分の野望への道を
着々と進み始めていた。

が、それは 当初の夢の為とは やや形を変え、
一人の人間を取り戻す為に必要な力を持つためにと言う
要素も含まれている。

「少将、お時間です。」

副官を持つ立場になってから、変らない人物。
自分を陰日なたになりながら支え、遠く離れていった時にも
信じて待ってくれていた人物。
その彼女に声をかけられて、ロイは 黙考していた時間を破る。

「ああ、すぐに行く。」

今日は ロイの授与式の日だ。
アメトリスの全土を恐怖に陥らせた事件で
セントラルを救った功績により、ロイは本日中将となる。
2階級特進は、通例では あまりない例だったため、
まずは 仮の階級として、少将として中央に呼び戻され、
本日正式に、中将となって天幕に入る。

ロイの上には、もう老齢の数人しかおらず、
それも 直に引退の月日が来る人物ばかり。
ロイの野望は、もう 手に掴んだも同然の位置にまできた。

そんな輝かしい未来が、すごそこまで来ていると言うのに・・・。

ホークアイは、先を歩くロイの後ろに従いながら
小さくため息を付く。

『笑わなくなられた・・・。』
ロイは 中央に復帰してからも、
それこそ鬼人のように職務を遂行していった。
忙殺される時間の中でも、さらに舞い込んでくる情報をもとに
ありとあらゆる耳目に精通し、的確な判断力と機動力をもって
あっと言う間に 軍の上層部を網羅し、
今や 誰一人、ロイに張り合おうとする者もいない。

いや・・、今のロイには鬼気迫るものがあり、
恐ろしくて逆らえないと言うのが本音かも知れない。

かってなら、使わなかった手段まで講じる今のロイには
遠慮や躊躇は感じられない。
今や ロイ・マスタングに逆らう事は
軍から排除されると言うだけでなく、
生命の危機さえ感じさせられると思っている者も多いはずだ。

そして、事実そうなのだ。

『早く戻ってきて頂戴・・・。』
ホークアイは、今は この世界にいない相手に
祈るような気持ちで願いを唱える。

『早く・・・、この人が狂ってしまわないうちに。』



「少し独りになりたい。」

ロイは そうホークアイに告げると、
共1人連れずに、車から歩き去る。

型道理の退屈な式典がつつがなく終わると、
ロイは 司令部に戻る道中で、車を停めさせると
しばらく待つように言って、降りて行った。

車中に残る ホークアイとハボックが
歩き去るロイが向かう先を見て、何とも言えない気分になる。

ロイは 忙しい中、こうして 独りになれる時間があると
ふらりと去って行く。
そこに行くときには、誰も寄せ付けず共も連れない。

「中将、まだ あきらめてないんっすよね。」

「ええ、多分 一生・・。」

短い会話を交わすと、二人は 互いに見せる事無く
心の中で、深いため息を付く。


ロイは、もう何度歩いたかしれない廃墟を通って行く。
 

ホークアイには、何度も止められたが
ここに来ることを止める事ができない。

『ここには何もな・・い・・・。』

死せる過去の遺物たち。
生きとして生ける生き物もおらず、
見放された大地のように、草木1本さえも生えてもいない。
死と静寂と、虚無だけが支配する廃墟。

おかしな事に 今のロイには、ここに来る時だけ
自分が生きている事を実感できる。

何も存在しない世界に入り込むことで、異質さを感じる。
そして、自分が 生きている事を感じる。
それは、どれ程の虚しさなのだろうか・・・。

ゆっくりと瓦礫が多くなってくる元道だった場所を
気をつけて歩いていく。
しばらく行くと、視界が開ける場所に来る。
そして、そこには 地面一面に広がる大きな練成陣が引かれている。

ロイは もうすでに何百回となったかもわからない程
歩き回った練成陣の周辺を回る。

ロイとて優秀な錬金術師に違いない。
だから、この錬成陣が何を意味して、どう作動するのかは
読み取れはする。

ただ、問題は 『どうすれば発動するのか』だ。
何度も試してもみたが、練成陣は発動しない。
多分、何かキーワードになるものがあるはずなのだ。

エドワードが この世界を去るときに
ロイに この練成陣を壊すことを願って去った。
が、ロイには この練成陣を壊すことは出来なかった。

この練成陣は、ロイとエドワードを繋ぐ
最後の手懸りだ。

例え エドワードの願いであっても、
ロイには この練成陣を壊す気等、毛頭も無い。

それどころか、この練成陣のある この場所を
誰にも触れさせないように守っている。

もし、不用意に この練成陣の1部でも壊されでもしたら
ロイにさえも、修復は出来ないだろう。
それ程、この錬成陣は高度で難解なものなのだ。

読み取りが出来る事と、創れる事は違う。
今の この世界に、この練成陣を創れる者も
動かせる者もいない。

出来るとすれば、真理から膨大な知識を得て尚且つ
戻ってこれたエドワード位だろう。

動かせる人間がエドワードだけなら、
この練成陣を動かして エドワードを呼び戻すことは
限りなく不可能だ。

それでも、ロイには この練成陣を壊す事は出来なかった。
今のロイにとって、この練成陣がなくなってしまえば
自分が どうなるかさえわからない。
全てのよすがをかけて縋るように、
沈黙を守る陣に賭けるしか、今の自分を保てない。

ロイは 深いため息を吐きながら、
しゃがみ込んだ目の前に広がる練成陣に触れようと手を伸ばす。

「ッツ・・・。」

地面に出来た瓦礫の1つに指を傷つけられると、
薄く引かれた紅線から、滲み出るように紅い血が湧き出てくる。

ロイは、さして気にした様子もなく
そのまま 手を伸ばし 練成陣の1部に触れる。

その瞬間、沈黙を守り続けていた練成陣が かすかに発光する。

「なっ!」

驚いたロイが意識を保てていたのは、
光始めた練成光が自分を覆いつくす所までだった。
ロイは、静かに 輝く練成陣の中に突っ伏した。





「なぁ、さっきから どうしたんだよ?」

窺うような表情で、エドワードがこちらを見ている。

『エドワードが、こちらを見ている・・・・?』

ロイは また、夢を見ているのかと思う。
彼が去ってから、何度も こうした都合の良い夢を見た。
突然、エドワードが戻ってきた夢や、
過去に見た記憶が見せているのか、彼の笑っているシーン、
怒っているシーン、困ったような照れたような表情、
そして・・・、哀しそうに 自分を見る瞳。
もう、何度見たかもわからないエドワードの幻想。

ロイは 人を愛することが、これほど自分を弱く、女々しくさせる事。
そして、捕りつかれた妄執のような狂気を生むことを
生まれて始めて知った。

「何も?」

ロイの声が、自分の意志とは関係なく返事を返しているのを
聞いている。

向かいに座っているのだろうエドワードの表情が
訝しげな様子を浮かべている。

そこでロイは始めて、自分の身に起きている違和感を感じる。
今思考している自分自身とは別に、
動いている体・・・。
そして、夢の中に現れるエドワードよりも
少し 大人びた彼。

ロイは、まさかと思う気持ちで
今、見えて、聞こえている現象に集中する。


「何もって顔じゃないぜ、
 何か 言いたい事があるんだろ?」

『鋼のだ・・・。』
自分が見慣れていた頃の三つ編みの髪型ではなく
高めの位置で一括りされた髪型の彼を
新鮮な気持ちで眺める。

「別に 君に言ってもどうしようもない事だ。」

素っ気無く返された言葉に、エドワードが不満そうな表情を浮かべるが、

「あっそう。」と答えるだけで流す。

ロイは そんな他人行儀なエドワードの姿勢に ツキリと痛む微かな寂しさを感じる。
昔のエドワードなら、こんな場面では 拗ねるか怒るかして
クルクルと忙しなく変る表情を見せてくれたのに、
目の前の彼は こんな大人びた言動をするようになっている。

「・・・すまない、八つ当たりだ。」

そう謝るロイの声が聞こえる。

『この男・・・?』
そんな言葉を告げている男の感情が
はっきりと感じられるわけではないが、
漂ってくる風のように、微かな感情の残像を伝えてくる。

寂しさ、虚しさ、寂寥感に焦り
そして・・・、嫉妬?

この男が、エドワードに特別な思いを持っている事は
伝わる思念が、自分と似通っている事でもわかる。

「俺、トイレに行ってくる。」

そう告げると、席を立って部屋を出て行く彼の姿を追う。

『待ってくれ、鋼の!
 私だ、わからないのか!』

一時の夢でもいい。
自分が生み出した 都合の良い幻想でもいい。
もう少しだけ、見させてくれ。

そんな思いで縋るように彼の後ろ姿を目で追う。

そして、ロイは驚愕をする。

豪奢な室内に備えられている鏡に映る姿は
見た事もないような服装をした自分自身の姿だった。



その次に覚醒したのは、沈黙を守る練成陣に突っ伏したままの
自分だった。
ロイは 慌てて起き上がり、
今 見ていた情景を頭脳をフル回転させて分析する。

少し大人びたエドワード。
見た事も無いような創りの室内。
そして、自分と瓜二つの姿を持つ人物。

ロイは瞬時に、扉の向こうの世界が開いたのを察した。

『あれは、間違いなく鋼のだ。』

何が起因したのかはわからないが、
練成陣が発動し、扉が開かれたのだ。
ロイ自身は、その扉を越える事は出来なかったが、
どうやら、精神は潜り抜けて辿り着いたようだ。

絵空事のような考えだが、エドワードが話していた
もう1つの世界。
それに間違いないのだろう。

ロイは 再度、手を伸ばして練成陣に触れる。
が、ロイの期待は 沈黙を守る陣に裏切られる。

しばらく、静まり返った陣を睨むように見つめていたが
振り切るように立ち上がる。

1度発動したのだ、決して 動かせないわけではない。
ロイは そう考えると、
しっかりとした足で、来た道を戻っていく。

降りて来た時には持ち得なかった高揚感が身を包む。
廃墟の街に光明の光を見出したような気がして、
ロイは ここ久しく持ち得なかった気力が戻るのを感じた。




「済まない、遅くなった。」

時間としては、僅かだったのだろう
車内で待つ二人の様子にも、いつもと変わりが無い。

「あれっ? 中将なんか・・・。」

「どうした?」
ハボックの問いかけに、ロイは 内心の思いを隠して問いかける。

「いえ、あの・・・いや 何でもないです。」

口ごもるハボックに、ロイは おかしな奴だなと
笑うと、そのまま 自分の思考に浸り込む。

静かに動き出した車の中。
ハボックとホークアイは、互いに目を見交わす。
二人が感じた ロイの異変は、
上手く隠してしまったロイのせいで
突き詰めれなかったが、どうも 今までの上司とは違う事を
薄々感じていた。

ロイは、自分の考えに浸り込んでいて
二人の自分を見る目が、拭いきれない不安を宿していた事に気づかなかった。



[あとがき]

久しぶりの aTMIシリーズです。
今回は ロイ側バージョン。
エドワードを連れ戻す事をあきらめきれないロイのお話を書きたくて
スタートしたシリーズ。
二人の無事の再会を、心より願っている私の執念の1作です。(笑)





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